苦楽堂通信

インタビュー

2023年1月12日号

神戸の鳥瞰図絵師・青山大介さんに8年ぶりに訊く【第3回】

ぼくはどこから来てどこへ行くのか

文・苦楽堂編集部

2022年11月23日、兵庫県立兵庫津ミュージアム開館記念式典のトークイベント。左から同館名誉館長・田辺眞人さん、齋藤元彦兵庫県知事、青山大介さん、神戸フィルムオフィス代表・松下麻理さん。(撮影・苦楽堂編集部)

お師匠さんが果たせなかった、そのふるさと・函館の鳥瞰図を描く──大きなしごとが間もなく完成する青山さん。さて、これから先はどこを描くのか。そもそも描けるのですか、というシビアな話も含めて伺います。

「売れる絵なんて描けねえなあ」

青山さんは鳥瞰図絵師になって何年になりますか。

【青山】居留地の鳥瞰図を描いて神戸新聞に載せてもらったのが2006年なので、17年ですね。

ちょっとここで、青山さんのここまでの主な作品を整理してみましょう。

————————————————————-
2011.10 「みなと神戸バーズアイマップ2008」発表
2013.04 『港町神戸鳥瞰図2008』発行(くとうてん)
2013.09 『海文堂書店絵図』(くとうてん)
2014.08 「津波避難情報板」(神戸市危機管理室)
2014.11 『次の本へ』(苦楽堂)装画
2015.02 『港町神戸鳥瞰図2014』(くとうてん)
2015.11 『大阪梅田鳥瞰図2013』(くとうてん)
2017.02 『港町神戸 今昔鳥瞰図2017&1868』(くとうてん)
2019.10 「渋谷!新しい巡り方。」表紙 コラボイラスト、表2 折り返し鳥瞰図『渋谷バーズアイマップ2019-2027』(マガジンハウス)
2020.04 『芝居小屋戦記』(苦楽堂)装画
2021.04 「令和の姫路城下 鳥瞰絵図2021」完成(播磨学研究所)
2022.11 「古の港都 兵庫津鳥瞰図1868」(兵庫県立兵庫津ミュージアム)
————————————————————-

こうやって見てみると、間が空くことなく作品を発表されていて、青山さんには常に順調におしごとがあったように見えます。

【青山】見えますよね。

では、青山大介の生活はどうでしたか。

【青山】最悪ですね(笑)。2020年の5月まではアルバイトしてたんですよ。今、何もしてないみたいなもんです。2022年の5月に「兵庫津鳥瞰図」を県に納めてからは、函館、函館、函館、函館って毎日 Facebook に函館の鳥瞰図のこと書いてますけど、なんで毎日描いてるかというと、しごとがないからですよ(笑)。なんかね、売れる絵を描かかなあかんなと思って努力しようと思ったんですけれど、やっぱり無理だ自分には……って。「売れる絵なんて描けねえなあ。しゃあない、函館やっとこう」みたいな。

売れる絵へのお声がかかったりは?

【青山】2022年の6月7月ぐらいにはちょっと単発のおしごとがあったんですけども、そのあとはパタっと途切れてます。やっぱり人に会いに行かなきゃいかんですかね。家にこもってたらあかんのやろうなあ……。今日の「兵庫津鳥瞰図」のお披露目は、2022年のぼくにとっては最大の打ち上げ花火で、これで次に何か繋がってくれなかったら、もうしばらくこの先絶望なんですけどね。

それ、新型コロナ禍の影響もありますか?

【青山】あるかもしれませんね。コロナ前だったら神戸市の港湾局さんから、客船の入港記念盾のしごととかもあったんですけど、コロナで突然なくなってしまった。船が入ってこないですからね。ボディーブローのようにダメージは効いてると思いますね。

手ぇ抜いたら怒られるじゃないですか

お師匠さんの石原正さんは、青山さんのように経済的な部分を無視して暴走して描くみたいなことはなかったんですか。

【青山】あの人はね、やっぱりちゃんとしてますよ(笑)。で、また、景気がいい時代だったんです。1980〜1990年代に広告業界で石原さんがやってたプロジェクトって、ひとつで数百万円とか入ってきたと思うんです。

一方で青山さんは、景気が悪くなってから描いている。

【青山】もうずっと。

「こういうもんだ」と。

【青山】はい(笑)。しんどいですけどね。何してるんやろって、穴の空いたバケツで水汲んでるみたいな。生き方間違ってるとつねづねずっと思っててね。「自分でやる」って決めたからやってるんですけど、なんでこんなね、やっても金にもならへんことをこうやってて。けど、ぼくは、これをやらないと次に進めないんですよ。

次、どうしますか。

【青山】まず、ほんまに函館を完成させて世に出すってこと。ぼく、そこしか今ないです。前のインタビューのときだったら、たとえば「横浜描きたい」とかなんか夢を語ってたかもしれんけど、今のぼくには夢っていうのは、ほんまにこれを完成させることがすべてですね。もうその先にあれ描きたいこれ描きたいっていうのは、今のとこ、ほんまに思えないぐらい、自分も追い詰めてるかもしれへんし、追い詰められてもいますね……。

鳥瞰図の世界に、新しい若手が出てくるみたいな予感は?

【青山】ぼくの代で終わるんじゃないですか(笑)。

今日の「兵庫津鳥瞰図」のお披露目イベントで、冒頭に出てきた小学生3人が青山さんと並んでる写真を先生が撮ってあげると思ってたんですけどね。

【青山】ああ、まったくなかったですね。あの子たちはあの絵を見てどう思ったんだろうなあ。

と、訊きたいですよね。もったいない。

【青山】でも、まだちょっとあの子らには早すぎるかな。

いや、わからないですよ。小学生ってツボにはまるとすごいじゃないですか。「あのとき青山さんの鳥瞰図を観て」という子たちが出てくるかもしれない。

【青山】小学校高学年って、なんか将来を決めてしまうような出合いがあるような時期ですからね。神戸市の副教材『わたしたちの神戸 4年』(神戸市小学校教育研究会・社会科部編/神戸市教育委員会刊)で神戸の鳥瞰図を表紙に使ってもらってるんで、神戸の公立小の小4の子たちは必ずぼくの鳥瞰図見てますからね。そういうのを見てると、ぼくの絵に影響を受けた子たちはいずれ来るかもしれませんし。

『わたしたちの神戸 4年』(神戸市教育委員会)

『わたしたちの神戸 4年』(神戸市教育委員会、2022年3月版)

老人介護の専門家の人に聞いたのですが、じじいになってすることなくなってくると、結局思い出すのは、小学校高学年のときにやってたことなんだそうです。青山さん、小学校高学年のときは?

【青山】結局絵ぇ描いてましたよ、ずっと家で。球技とか一切ダメなんで、外で遊ぶよりは、家でちまちまちまちま、橋描いたり、なんか家描いたり、ずっとここに繋がるようなことをしてたと思います。それがなんか、行きついたらこんなことなってるんですもんね。

前回のインタビューから8年経ちました。この間に強くなったこと、獲得したものはありますか。

【青山】あー、忍耐だけかなあ……。あと、描くペースは確実に速くなってるはず。やり方もより精度よくなってますよ。

まだ、絵が上手になれそうなかんじはしますか。

【青山】ああ……あります。多分あるはず。

日本でここまで鳥瞰図をやっている人いないから、もう手を抜いてもいいのでは。

【青山】はっはっは(笑)、でも、石原さんに怒られるからやらないです、それは。せっかく函館描いてんのに、手ぇ抜いたら、怒られるじゃないですか。そんなええ加減な函館の絵は世には出せない。ぼくが「函館描きました。皆さん見てください。石原さん仕込みの鳥瞰図です」とか言ったときに、ぼくがええ加減な絵を描いてたら、石原さんの名前まで落とすことになるから、そんなことは絶対できない。ぼくは直系の弟子じゃないけれど、絶対石原さんの名前を言うから、言う以上はええ加減なことはできないです。そのぐらい、あの人の突き詰め方ってすごかったんで。

相手が死んでるから、かえってそうなっちゃうことありますよね。

【青山】うん。

30年後には超一級資料になるんで

最後にぜひアピールを。「銭になるしごとをよこせ」でしょうか。

【青山】はっはっは(笑)、まあ、そこに行き着くんですけどね。でもまあ、そう言ってしまうと、なんか身も蓋もないですしね……。

では、この先、何が「したくないか」を訊きましょう。

【青山】ああ……やっぱり自分が乗り気じゃないような絵は描きたくない。気持ちが入らないと、やっぱりいい作品にならないですよね……。

毎年、兵庫津みたいなしごとが2本ずつぐらいあるといいですか?

【青山】あればいいですね。けど、結局それがないっていうのが現実の世界ですよ。だから、鳥瞰図で食っていこうと考えるのがほんまに甘かったんやろうな。

8年前のインタビューでわたしが「全国の港町鳥瞰図シリーズってできないですかね」と訊いて、青山さんは「やりたいと思ってるんです。『開港五港』で。函館、横浜、神戸、長崎。新潟はちょっと港らしくないんで可哀想だけど……。揃ったら、むっちゃいいですよね。でも、自費ではなかなか」と言われてます。

【青山】言ってます。「そこまでのビジョンがない」とかも言ってますけど(笑)、「開港五港」に限らず、全国いろんな街、描いてみたいですよ。

ではこちらから申し上げます。今日の「兵庫津鳥瞰図」を見てつくづく思いました。全国の「予算を持っている人」に、青山大介という鳥瞰図絵師がいることに気がついてほしいな、と。特に役所と、その街の企業経営者の方に。自分たちの街というものが好きだと言うのであれば、鳥瞰図という形で遺してくれる人がいるんだということに、日本中の役所と経営者の皆さんに気がついてほしい。

【青山】うん、今は価値のない絵かもしれませんけど、10年後、30年後にはすさまじい超一級資料になるんで。これは神戸のときも言ってますけど、必ず貴重な資料になるんで。

去年死んじまったノンフィクション作家の佐野眞一のことばに「記録されたものしか記憶されない」というのがあるんです。記録があるからこそ、人は記憶する。記録を残していくことの意味が、それぞれの街にはあると思うんです。

【青山】そしたらぼくも生きていけるんですけどね(笑)。まあ、生活に困らん程度にもう少しまともになりたいです。

今日、青山さんは知事と並んで壇上に立つ人にはなったんですよ。

【青山】階段、一歩一歩上がってきてましたからね。

お天道さまは見ていると思います、そういうことを。

【青山】お天道さま、楽にしてくれへんなあ、ほんまに(笑)。

アーカイブご案内

青山さんへの前回(2015年)のインタビュー《『次の本へ』装画家に訊く─青山大介さん(神戸の鳥瞰図絵師)》はこちらでお読みいただけます。
【第1回】ぼくはなんで海文堂書店を描いたのか
【第2回】ぼくはなんで鳥瞰図絵師になったのか
【第3回】ぼくはこれから何を描きたいか

▲ページの先頭へ戻る
copyright © 苦楽堂 all rights reserved.