苦楽堂通信

インタビュー

2015年4月13日号

『次の本へ』装画家に訊く─青山大介さん(神戸の鳥瞰図絵師)【第3回】

ぼくはこれから何を描きたいか

文・苦楽堂編集部

インタビューに答える青山大介さん。手元に拡げられたのは青山さんの作品「港町神戸鳥瞰図」。(撮影:古本屋ワールドエンズ・ガーデン店主、小沢悠介さん)

苦楽堂の仕事場に遊びにきたとき、青山さんは「あっ」と声に出して本棚に手を伸ばした。手にしたものは神戸のガイドブック。震災以前の古いものだ。つまり今ではガイドブックとして役に立たない本。「そのときの歴史が残ってるじゃないですか。震災の前に発行された『るるぶ』とかに、解体される前の阪急三宮駅の中のレイアウトとか写真とか載ってるんです。そういうの買っていって残さんとしゃあないなと思ってたんですよ」。最終回では、青山さんの神戸への思い、そして「これから何を描きたいか」を伺います。

「たぶん神戸離れたら生きていけない(笑)」

青山さんの「港町神戸鳥瞰図」のことを、ここでおさらいしておきます。まず2007年3月に「神戸旧居留地鳥瞰図2006」(縦約50cm×横約70cm)を完成させる。対象エリアは約22ヘクタール。ビルの数は約100棟。地元の神戸新聞の取材を受け、4月には記事が掲載されました。翌2008年、青山さんは領域を数十倍に広げた神戸の鳥瞰図に着手。JR三ノ宮-元町-神戸駅以南から神戸港までを描いた作品は2011年に「みなと神戸バーズアイマップ2008」として完成。この作品が2013年にくとうてんから「港町神戸鳥瞰図2008」として発売されました。2014年には「港町神戸鳥瞰図」が神戸市の津波避難情報板として採用されることが決まるわけですが、6年の間に新しいホテルが建ち、マンションが増え、海沿いには結婚式場ができていた。青山さんは改訂版の作成に着手し、いや改訂するどころか拡大し、2008年版では描かれていなかった川崎重工神戸工場と、その背後の住宅密集地を書き加えた。そして改訂版にして拡大版の「港町神戸鳥瞰図2014」が、今年の2月21日にくとうてんから発売されたわけです。改訂作業はたいへんだったと思うのです。たとえば、2008年版では栄町通の東端にあった旧神戸住友ビル、去年(2014年)なくなってますよね。

【青山】はい、今回の2014年版では消しました。

6年を挟んでの改訂版となると、けっこう細かいチューニングが要るのでは。

【青山】はい、今回改訂してて「勝手になんで変えんねん!」いうのはありますよ(笑)。

今、神戸市が計画している三宮の再開発とか始まったら大変ですよね。

【青山】大きな建物が建つのは嬉しくていいんですけどね。

細かいのは……。

【青山】めんどくさいですね。で、マンションが増えるじゃないですか。

増えてますよね。元町商店街の西出口にあった三越の跡地もマンションですもんね。

【青山】大阪のベッドタウンとしては便利なんでしょね。住んでる人らも、地元にお金落とす気はないんでしょうけどね……。

そうなっちゃったから海文堂書店はなくなったのかなあとも思いますよ。

【青山】ああ……。

神戸でできた若い友だちと話していると「できる人はみんな東京に行っちゃった」みたいなことを聞くことがあります。神戸に限った話じゃありませんが。青山さんは神戸を出ようと思ったことはないですか?

【青山】ないです。ぼくたぶん神戸離れたら生きていけない(笑)。いや、今はたぶん生きていけるかもしれないけど。ちょっと前まではそう思ってました。東京いいなあ、横浜しゅっとしてていいなあとか思うけども、それは観光で行って思うだけで、そこで生きていけるかというと自信全然ないんで、こっちのほうがいいです(笑)。

「開港五港」を描いてみたい

東京ではなくほかの場所で暮らしてみようと思ったことは?

【青山】函館は思いましたね。

師匠の石原正さんの生まれた街ですね。

【青山】観光に行ったとき思いました。「俺、ここで仕事あって食って行けたら、住みたいな」って。横浜も長崎も好きですけど、そこまで思ったのは函館。函館西部地区――扇型の島がドックに向かう、函館らしいところがすごく良かったんで。鳥瞰図映えが最高にするところですし、あそこに住めたら幸せやろうなと思って。生まれてたら、神戸で言っている以上に「函館LOVE」になって、つねに口から「函館、函館、函館!」って言ってる人間になったやろなと思うくらい(笑)。

たしかに、あんな格好した街はそうそうないですよね。

【青山】何が凄いって、何度も何度も火災、大火に遭ってるんですよね。そのたびごとに坂道が広くなっていく。八幡坂とか二十間坂とか、神戸にはないくらいの幅の坂道がずどーんずどーんと通ってて。それがかっこええなあと思ったんですよ。

函館、いつ鳥瞰図を描きますか。

【青山】これがねえ……30代のうちに手を付けたいと思ってたんですけど、この流れでいくと到底無理やなあと。

でも、いつかは?

【青山】函館だけは描かずに死ねない。ああ、これは石原さんのことばを言ってますね(笑)。

函館の人たちは、自分たちの街から希代の鳥瞰図絵師が出ていることを知ってるんでしょうかね。

【青山】ほとんど知らないと思いますよ。石原さんと北島三郎さん、函館西高校で同期なんですけどね。

青山さん、師匠の石原さんのように鳥瞰図絵師として一本立ちできればベストですか。

【青山】ベストですね。

そうするためには、どうすればいいんでしょう?

【青山】うーん……ぼくはそこのビジョンが弱いんで……正直、考えてないというか、日々のことをこなしていくくらいしか。先のこと見えてないんですけど……。どうするのかな。今はこの階段を上り続けることかなあということしか判らないんですよ。どうやったらカネ儲けに繋がるのかとか、喰っていけるかとかわからなくても、一段一段上っていくしかないんかなあと。この1年2年そうやって上ってきて道が開けてきてるから、また半年先、1年先、と階段上っていったら、次の景色見えてんのかな……ていうところですね。できれば大きい仕事が、どっかの都市の鳥瞰図とかどーんと決まってくれると、安心できますし、それにがちっと専念して結果も残せるんで。「いつまで神戸の鳥瞰図で喰ってんねん」というのもあるんで、次の新しいのも出さないと。ぼくはこれしかないんかい? という焦りもちょっとあって。震災20年目の神戸で、神戸の鳥瞰図が生み出してくれるピークはそこでしょうから、なんか次のものをつくらんと。いつまでもこの子に頼ってるわけにもいかへんので。この子はよく恩返ししてくれたと思うんですけど、一生こいつで生きるわけやないから。次、その次ってつくっていかないと。

営業活動はどうやっているんですか。

【青山】今んところありがたいことに、ぼくが何もしなくても、人からの話がちょこちょこと打診が来るんで。

本気で函館を描くときは、期間、どれくらい欲しいですか?

【青山】専念できるんやったら……函館西部地区2キロ四方、丸々1年あったらできるんちゃうかなと思います。

全国の港町鳥瞰図シリーズってできないですかね。

【青山】あっ、それはぼく、やりたいと思ってるんです。「開港五港」で。函館、横浜、神戸、長崎。新潟はちょっと港らしくないんで可哀想だけど……。揃ったら、むっちゃいいですよね。でも、自費ではなかなか。何かとのタイアップでできたら。自分で「やりたいやりたい」って情報発信していったら、気づいた人が「やりません?」ってなるチャンスもあるのかなと。

港の絵じゃなく本屋の絵ですけど、『次の本へ』で海文堂書店の絵を見た人が「うちの店を描いてくれ」って話が来たらどうしますか。

【青山】やっ、それはそれで嬉しいですよ(笑)。喜んで、それは。こういう絵だったら勝負早いですよ。大きい街になると半年1年の勝負なんできっついんですけど(笑)。

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